ポジティブな職場文化の雰囲気づくりから社員の行動規範の策定まで、しっかりと定義された組織の価値観は多くの重要な役割を果たします。効果的な価値観とはどのようなもので、どのように作用するのかを理解しましょう。

組織の価値観とは?

組織の価値観とは?

組織の価値観とは、組織が持っている中核的な信念です。ビジネスを左右する原則やその理念、そこで働く人に期待される行動などが含まれます。

価値観とは大局的なもので、ある1つの状況に関するものではなく、すべての活動とその対応について会社がどう対処するかという指針になります。ある説明にあるとおり、「組織の価値観は、その組織の中で何が重要でよしとされるかを示す指針として働く」ものです。

組織の価値観を明確にすることで、その会社の個性がはっきりし、他社との差別化を図ることができます。会社の立ち位置と信条についても明確に述べられるようになります。社員は大きな目的意識と責任感を持って仕事に集中し、会社が掲げる幅広い目標にも日々の意思決定や業務にも大きく貢献できるようになります。そして何より重要なことに、組織の価値観は組織文化を形づくる礎となり、変化の激しい時代でも常にそこに立ち返れる基準となります。

もちろん、最も優れた価値観はそのすべてを実現するものであり、成功への枠組みとなる一方、会社全体の倫理観を強化するものでもあります。

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組織の価値観とミッションステートメントとの違い

組織の価値観とミッションステートメントとの違い

組織の価値観とミッションステートメントは、ともに企業文化の基盤を形づくる両輪です。ミッションステートメントは会社が何を目指すかを示し、価値観はその途上で会社がどう行動するかを示すものです。

組織の価値観を定義すべき5つの理由

組織の価値観を定義すべき5つの理由

一部の組織は、自社には価値観があり、社員全員がその価値観を理解していると思い込んでいるようです。しかし、いつの間にか何となく理解しているだけでは不十分です。価値観を明確に定義して共有しなければ、その価値観に対する認識が人によって大きく食い違い、皆がそれに沿って動いてしまう可能性があります。また、組織がその価値観を顧客やメディアを含めた広い世界に発信した場合のメリットが得にくくなってしまいます。

明確に定義された価値観のメリットをいくつか次に述べてみましょう。

  1. 有能な人材を引きつける

    転職先を探している人の目からすると、組織の価値観があるとないとではまったく違います。給与やその他の福利厚生も大きな判断材料にはなりますが、職探しをする人は組織の理念が自分の理念に合っているかどうかを知りたいと考えます。

    調査によれば、専門職の人のうち71%が、給料が下がってでも自分と同じ価値観の会社で働きたいと考えています。一方、専門職の人のうち39%は、モラル的に誤っていると自分が思うことを雇用主に頼まれたら今の仕事を辞めると考えています。

  2. 競合他社との差別化を図る

    競争の激しい市場においては、消費者は製品やサービスや値札の向こうにあるものを見ています。市場調査会社Forresterによれば、米国の成人全体の52%が、オンラインで買い物をする前にはブランドの価値観を考えると回答しています。この数字は、ミレニアル世代の消費者では7割近くにまで上昇します。同社の調査では、その上の世代でも会社の価値観に敏感な人が増えていることが分かっています。

    行動原理は、一部のビジネスオーナーが思っているよりも大きく、会社の利益に影響します。ミレニアル世代の71%が、収益の一部がチャリティに寄付されるなら、少し高くてもその製品を買うと回答しています。他人を助ける小さな取り組みで、収益に大きな違いが生まれる可能性があるのです。

  3. 安全な職場環境を作る

    熟慮の上で一連の価値観を整えることにより、働く上での行動規範が従業員に提示されます。この行動規範が、すべての人に理解できて働きやすいと感じられる、プロとしての社会的・物理的・仮想的なやりとりの中での行動の指針となります。これをうまく運用することで、強い安心感が生まれます。たとえば、公平性を最優先事項にすると、悪影響のある行為を組織が特定して対処することが保証されます。

    マネージャがチームメンバーに期待できること、またその逆のことが分かっているため、思いがけず不快な思いをすることがありません。

  4. コミュニケーションを強化する

    しっかりした価値観がベースにあれば、社員が顧客や同僚とやりとりする際の言動に、先を見通そうとする組織のポジティブな姿勢が表れてきます。それは会社の評判を高めることになるだけでなく、共に働くチームの生産性向上にもつながります。

  5. 社員エンゲージメントが向上する

    組織の価値観が社員に受け入れられれば、社員エンゲージメントも高まります。そうすることで、社員は組織や他の社員とのつながりをもっと感じられるようになります。この熱い気持ちが日々の仕事にもあふれ出し、チームに「自律的な努力」への意欲がわくので、それが業績に非常に大きな違いを生み出すのです。

    調査会社Gallupの研究では、エンゲージメントの高いチームでは離職率が低く、エンゲージメントの低いチームに比べて利益性が21%、生産性が17%高いことが分かっています。メリットはそれだけにとどまりません。エンゲージメントの高いチームでは常習的な欠勤率が41%減少し、社員の離職率も59%減を達成しています。

組織の価値観の例

組織の価値観の例

組織の価値観とは、公平や誠実や包括性といった1つの単語で言い表せるものだと思うかもしれません。しかし、それでは不十分です。価値観の表明とは、ビジネスにとって価値観が何を意味するのか、どのようにそれを実践するのかを言い表すものでなくてはなりません。ただの空虚なスローガンであってはならないのです。

いくつかの会社の実例を見てみましょう。

  • 素早く動く。大胆であれ。自分らしくあれ。- Facebook
  • 当社では、当社と似た価値観を持ち、当社と同じ基準を支持するサプライヤー、代理店、ディストリビューターその他のビジネスパートナーと共に仕事をしたいと考えています - ユニリーバ
  • 当社の価値観は当社の組織の文化を形作り、当社の特徴を定義するものです - アクセンチュア
  • 進歩的な価値観をもってビジネスを遂行する - ベン&ジェリーズ
  • 人によってものの見方は異なります。イケアにも独自の視点があります。 - イケア
組織の価値観を発展させるには

組織の価値観を発展させるには

組織の価値観は既製品のように買えるものではありません。1つの組織とその社員や信条に固有のものです。また、誠実なものでなくてはなりません。デスクに座って真っ白なページを開き、何が必要かを書き出すだけでは、おそらく不十分です。まずは組織がこれまでに行っていることに目を向けてみましょう。

スタッフや顧客に、どのように接していますか?組織があるコミュニティで、どれほど積極的に活動していますか?経営陣のメンバーの多様性は、どのくらいでしょうか?これらの質問に対する回答が土台となって、会社の本当の価値観が決まっていきます。

価値観を定義する際に考えるべき点は、次の5つです。

  1. 会社の目的は何か

    しっかりした価値観はどれも、ビジネスの目的に沿っています。最高水準の製品を作っているメーカーのことはよく知られていますが、配送のスピードに対してプライドを持っている物流ビジネスもあるでしょう。会社の理念においては、そこを明確にすることが不可欠なのです。

    目的を基準とする価値観は、人間にとってもメリットがあります。仕事における目的の役割に関する研究によれば、目的を持って働く人の73%が自分の仕事に満足しています。1

  2. どのような行動を奨励したいか

    従業員にとってのモラルの指針として、価値観を描いてみましょう。そうすれば、スタッフが常にどのように行動すべきかを示す光が見えるはずです。スタッフが互いに、また顧客に対してどう接することを望みますか?組織としてダイバーシティとインクルージョンをどのように支持しますか?

  3. 価値観はビジネスの構造とどのように連動するか

    組織によっては、管理階層が少なく命令系統が短い、フラットな構造のところがあります。そのようなビジネス向けに作られた価値観は、複雑な階層を持つ伝統的な会社向けの価値観とは違って見えるかもしれません。フラット構造のビジネスでは説明責任を重視する可能性がある一方で、従来の会社では、チームメンバーを育成するマネージャに重きを置くことが考えられます。

    ビジネスにおける習慣やならわしは、国や地域、さらには部署によって異なることがよくあります。指針となる理念を伝える際には、そういった相違点をよく認識し、そのどこにビジネスの基礎を置くかを明確にすべきです。すべての人にその理念を伝えた上で、働いてもらう必要があります。

  4. リモート勤務やハイブリッド勤務を奨励する価値観を持っているか

    今の価値観が、リモート勤務をする従業員にとって助けにならない可能性があります。そういう場合は価値観をアップデートする必要があります。さまざまなシナリオで自社の信条がどのような役割を果たすかを思い描き、場所に関係なくすべての従業員の働きをサポートするようにしましょう。

  5. 世の中からどう見られたいか

    あなたは顧客中心のエキスパートか、関係構築のエキスパートか、そのどちらかです。いずれにしても、あなたの価値観は正しい印象を与えるものでなくてはなりません。しかし、価値観とは格好良いパブリックイメージを作るものではありません。その基準に従って、従業員も生活し、仕事をしなくてはならないからです。

    スタート地点のイメージができたら、価値観の形成にはさまざまな人に関わってもらう必要があります。

組織の価値観を形成する4つのステップ

組織の価値観を形成する4つのステップ

スタート地点のイメージができたら、組織の価値観の形成にはさまざまな人に関わってもらう必要があります。

ステップ1: チームを集める

組織の価値観は、ビジネスに関わるすべての人を考慮したものでなくてはなりません。ワークフォースを組織横断的に見て、バランスが取れていて目的の明確なセッションを行うことを目指して、リーダーを選ぶように努めましょう。人事の誰かを選ぶとうまくいくでしょう、

ステップ2: ブレインストーミングを行う

出社時とリモート勤務時の両方について、同僚やマネージャにどう接してもらいたいかをスタッフに尋ねてみましょう。従業員が雇用主に対して期待することについても議論しましょう。その時こそ、チームに対する組織の期待について話を進めるチャンスです。

ステップ3: 新しい価値観を書き留める

ここで、自分たちのアイデアを書き留めます。ひとつの会社に対して理想的な価値観の数はありませんが、理解しやすく覚えやすいシンプルなものにする必要があります。会社によっては、理念を常に念頭に置いておけるよう、頭字語を使うところもあります。

ステップ4: トップから承認を得る

特別に集めたチームとの話し合いがすべて完了したら、次はその成果を関係者に提示して承認を得ます。自分の考えを説明し、提案に沿って価値観を微調整する心構えをしておきましょう。必ず、主な関係者全員から承認を得てから、自分の価値観をチームの他のメンバーに共有してください。

組織の価値観をどのように伝えるか

組織の価値観をどのように伝えるか

どれほど最高の価値観ができたとしても、それを効果的に伝えなければよいスタートは切れません。会社の理念をチームに共有することは、プレゼンを行ったりグループメールを送信したりすることよりも、ずっと多くのことを伴っています。価値観を伝えるというのは、継続して行うべきプロセスです。それをうまく軌道に乗せるための6つの方法を述べていきます。

  1. 価値観の主張

    これが、価値観を共有するための最初のステップとなります。すべて簡単で読みやすい言葉で書くようにしましょう。シンプルイズベストです。自分の価値観を、職場のキッチンや倉庫、店舗に貼ったり、イントラネットやグループチャット、顧客の目に触れるウェブサイトに投稿したりします。出社しているかリモート勤務か接客業務かにかかわらず、すべての人に、自分の価値観の主張に慣れてもらう必要があります。

  2. 導入的な会議

    全社的な会議で、価値観を発表します。物理的に出席できる人だけでなくすべての人がアクセスできるよう、コミュニケーションツールを使って会議を開催するとよいでしょう。

  3. 業績のレビュー

    組織の価値観を昇給や昇進に結びつけることで、社員に価値観を受け入れてもらうことができます。チームのメンバーに、価値観を重視した目標を立てるよう依頼します。自分の価値観に合った測定可能な目標を立てれば、年間を通じてその価値観を念頭において活動できます。

  4. コミュニケーション戦略にリンクさせる

    慎重に言葉を選んで使うことで、理念をさらに広めることができます。スタッフがメールの「送信」やソーシャルメディア投稿の「公開」を押す前に、必ずその発言内容が自身の価値観に沿ったものかどうかを考えてもらうようにしましょう。

  5. 面接で自身の価値観をアピールする

    成人の77%が、職務に応募する前にその会社の文化を考慮しています。そのため、求職者は面接の過程で彼らがあなたのチームになじめるかどうかを推し量っているという前提で考えましょう。できるだけ早い機会にあなたの理念を話すことで、あなたの組織になじめそうだという確信を誰もが持つことができます。

  6. 形式張らないやりとり

    価値観を話し合うのは、形式張ったプロセスでなくてもかまいません。カジュアルなやりとりの中で、マネージャが理念について話すのもよいかもしれません。価値観に基づく目標を立てるときに同僚とアイデアを共有してもいいでしょう。皆がグループに対して自分の考えた例をうまく提示できれば、進捗のレビューがより有意義なものになるかもしれません。

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